転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


208 お爺さん司祭様、イーノックカウへお出かけする



「司祭様、お出かけするの?」

 昨日、お爺さん司祭様にいろんな事教えてもらって、これでお尻の痛く無い馬車が作れるぞって思ってたんだけど、その司祭様が今日になって急にお出かけするって言い出したもんだから、僕はびっくりしたんだ。

「ちと急用でのぉ。数日の間、村を留守にする事になった。そこでルディーン君。わしが出かけている間にもし村の人に怪我人が出たら大変だろう? だから、その時は君に治療をしてほしいと思い、お願いしに来たと言うわけだ」

「うん、いいよ! 僕、体のどっかが取れちゃったりした時はまだ治せないけど、それ以外なら頑張って治すよ」

 後1レベル上がるまでそんな怪我は治せないけど、グランリルの人たちはみんな慎重に狩りをするから、そんなおっきな怪我はしないんだよね。

「いやいや、わしとてそのような大怪我は治せはせぬ。それにこの村ではここ十数年、それ程の大怪我をおった者は出ておらんから安心せい。怪我人が出てもせいぜい骨折程度だろうよ。その程度ならば、ルディーン君でも治せるだろ?」

「うん。それなら大丈夫だよ」

「うむ。いい返事だ。長くても4日もすれば帰ってくるから、それはでは村を頼むぞ」

 お爺さん司祭様はこう言うと、僕のお家の前に繋いであった馬に乗ってお出かけしてったんだ。


 ■


「この街の西門は、何時来ても活気があるのぉ」

 わしはグランリルの村を出発した後、4時間ほど馬を走らせてイーノックカウの西門へとたどり着いた。

 そこには多くの人々が街に入る為の行列に並んでおり、その光景は長らく静かな村で生活したわしにとって少々騒がしく感じるほどだ。

 わしはその行列の横をそのまま通り、その人々が向かうのとはまた別の入り口へと向かう。

 そこは多くの馬車が一度に通る事ができる大門に比べてかなり小さく馬車一台程度しか通る事ができないが、その門を守る兵士は大門に比べると立派な身なりをしていた。

「高位神官とお見受けしますが、申し訳ありません。規則ですので、聖印をお預かりしても宜しいでしょうか?」

「うむ」

 この小さな門は貴族や一定以上の税金を治めている大商会の頭取、そして司祭以上の位を持つ神官のみが通る事を許されている。

 それだけに兵士の対応も丁寧なのだが、

「これは!? こっ今回はどのようなご用事でこのイーノックカウにいらしたのでしょうか? 中央神殿に足を運ばれるのでしたら、直ちに早馬で先触れを出しますが」

「いや、それには及ばん。折角来たのだから一度は顔を出すつもりではあるが、今日は古い友人に会いに来ただけだからな」

「そうでございましたか。それでは護衛をかねて案内を門から出しますので、しばしお待ちを」

「よいよい。古い友人に会いに来たと申したであろう? 場所は解っておるから早う通せ」

「解りました。ではお通り下さい」

 とまぁ、兵士たちも教育が行き届いている者ばかりが配置されている為に毎回このように足止めをされてしまうのが難点だな。

 馬車ではなく馬できているのだから、そのような仰々しい事は望んでおらんと解りそうなものだが。

 そのような事を考えながら、わしは目的の人物がいるであろう場所を思い浮かべる。

「確か、領主を退いてからはいつも錬金術ギルドに入り浸っていると言う話だったな」

 この都市には何度か来ておるから、主要な場所の位置は把握している。

 だからわしは、迷う事無く馬を目的の建物へと向かわせた。


「しかし、ここは何度見てもギルドの建物には見えぬのぉ」

 馬から下りて馬止めにつないだわしは、目の前にある三角屋根の建物を見ながら独り言ちると、その鮮やかな赤い扉に手をかける。

 カランカラン。

「邪魔をするぞ」

「ん? おお、これはめずらしい。聞き覚えがある終えじゃと思ったら、推挙された枢機卿から逃げ出した大司教様ではないか」

「何を言っておるか。あれはお主がわしへの嫌がらせであろう」

 わしは目の前におる、紫色のローブを着たくそじじいを一睨みする。

 だがこやつはわしの視線などどこ吹く風とばかりに飄々としておるのだからまったく忌々しい。

「ほっほっほっほっ。そうは言うが、あの頃は周りからもおぬしを枢機卿にと言う声が上がっておったじゃろう? わしはその声にこたえただけじゃ」

「まったく。おぬしはわしがそのような面倒ごとにかかわりたくは無いとよく知っておったであろう。ただ、楽しんでいただけではにあのか?」

「まぁ確かに、その側面は大いにあったかもしれんのう」

 この古い友人は、そう言いながら悪びれもせずに笑っておる。

 それを見ると忌々しく思えるのだが、

「じゃが、そのおかげでおぬしは大司教などと言う面倒ごとからも逃げ出す事ができたのではないかな?」

「確かにその通りなのだから、余計に腹が立つ」

 実際こいつが仕掛けるいたずらはめぐりめぐって、最後には仕掛けた相手に有利に働くのだからたちが悪い。

 まぁだからこそ、わしもこやつの友人を続けているのだがな。

「して、今日はどうしたのじゃ? まさか、今更過去の話を蒸し返しに来た訳ではあるまい?」

「うむ。今回の用件は二つ。まずはこの錬金術ギルドから依頼されておる、髪の毛が再生するポーションの途中経過の報告だ」

 グランリルの村にはわしを除いて髪が薄い者はおらん。

 そのおかげでわしがそのポージョンの実験台に選ばれたと言う訳だが、その経過報告は本来手紙で行うと言う話になっておった。

 だが今回、このじじいに言っておかねばならぬ事ができたから、そのついでに済ませようと言う訳だ。

「ほう。それはわざわざすまんのう。今ギルドマスターを呼ぶから、ちと待っておれ」

「いるのか?」

「うむ。今は奥で書類仕事をやっておる。じゃが声をかければすぐに来るじゃろうて」

 そう言うとわしの古い友人、フランセン老はカウンター後ろの扉を空けて奥へと行ってしもうた。

 まったく。用事は二つあると言っておろうに。

 だが、髪の毛のポーションに関しては確かに錬金術ギルドのマスターに話さねばならぬからと、わしは考えを改めてカウンター手前の椅子に腰を下ろした。 


 フランセン老はすぐにと申しておったのに、彼がギルドマスターを伴って帰って来たのは10分ほどしてからの事だった。

「お待たせして申し訳ありません。ハンバー大司教様。ギルドの決済で重要な書類を作成している所だった物で」

「よいよい。わしも突然来てしもうたからのぉ。それにわしはもう大司教ではない。今は小さな村の司祭をしているただの年寄りだ」

「まぁ、そうなのですか? 伯爵からはあなた様が御越しになられたとしか聞いて居りませんでしたので」

 どうやらこのギルドマスターは、わしが今グランリルの簡易神殿にいる事もポーションの実験台になっておる事も知らぬようだな。

 ならば声をかける時にきちんと説明しておくべきだと、わしは思うのだが。

「フランセン老よ。おぬしはどんな説明をしたのだ?」

「ん? ギルマスもおぬしの名前くらいは知っておるからのぉ。じゃからおぬし実はわしの古い友人で、ギルドに関係した頼み事の報告に来てくれたから顔を出して欲しいと話しただけじゃ」

「まぁ、確かに嘘は言っておらぬが……それは少々意地悪が過ぎるのではないか?」

「そうか? ギルマスを呼ぶのに、おぬしが今、どこに住んでいるかまで説明する必要も無いと思うのじゃが」

 むう。そう言われると確かにその通りなのだから、わしも強く非難することができぬ。

 しかしそれでは流石にギルドマスターに悪いからのぉ。

 と言う訳で、わしは改めて自己紹介と、今日ここを訪れた理由を説明する事にした。

「こやつに任せては話が進まぬ様だから、わしから話すとしよう。名は知っておるようだが改めて。わしの名はラーファエル・キオ・ハンバー。今はグランリルと言う村にある簡易神殿で司祭をしておる。今日ここを訪れたのは」

 わしはそこまで言うと、被っていた高位神官を現す帽子を取った。

「ルディーン君が作ったと言う、髪の毛を再生させるポーションの経過報告のためだ」


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